フィル・ゴードンのポーカー攻略法

 

フィル・ゴードン(Phil Gordon)

WSOP(ワールドシリーズオブポーカー)4位、WPO(ワールドポーカーツアー)優勝2回を含め、生涯獲得賞金額は230万ドル超えの一流プロです。フルフィルトと契約してた時期もありました。セレブリティ・ポーカー・ショーダウンの司会者も務め、その鋭い洞察力は視聴者を魅了しました。

著者にはフィル・ゴードンのポーカー攻略法入門編、実践編、デジタルポーカーHUDでここまで勝てるがあります。ポーカー攻略法入門編が出た当時は、自分の戦略を包み隠さずオープンしてくれる数少ないプロで、世界的に一般人のポーカースキルを上げてくれた立役者です。

私を含め多くの人がフィル・ゴードンには感謝していることだと思います。

 

入門編 ノーリミットホールデムの戦略

定価:2500円

初版:2010年7月3日

著者:フィル・ゴードン

監修者:百方恵二

訳者:佐藤友香、松山宗彦

ポーカーの基本的な事柄を忠実に述べた教科書的な名著です。多少独自論的なところはありますが、完成されたポーカーの戦術など有り得ませんので十分受け入れられる範疇です。

内容はポーカーの真理から始まり、プリフロップ戦術~リバー戦術、テル(癖)、トーナメント戦略、確率、心理学と、基本的にはライブポーカーを対象とした戦略が多方面に渡って書かれています。

この本の素晴らしいところは、著者が包み隠さず読者の理解を助けてくれるように書かれているため、大変分かりやすいことです。難しい部分もありますが、ポーカー自体が難しいゲームですので、それも当然かと思います。何度も読めば理解できます。基本的には初心者が対象ですが、上級者が読んでも何らかの発見はあると思います。

ゆっくりゆっくり繰り返し読んで、忘れた頃にはまた読んでと一生傍らにおいて置きたい本です。基本っていうものが如何に大切か教えてくれる名著です。

 

実践編 ノーリミットホールデムのレッスンとハンド分析

定価:2500円

初版:2011年2月3日

著者:フィル・ゴードン

監修者:百方恵二

訳者:松山宗彦、若杉美奈子、吉田正憲

この本では入門編で書かれたことを元に著者がプレイされたハンドが考察されています。キャッシュゲーム、トーナメント序盤、中盤、終盤、ファイナルテーブル、シットアンドゴー、サテライト、と章があり、それぞれの場面でプレイされたハンドの仔細が載っています。リアルポーカーもオンラインポーカーも扱われています。

対戦相手にはよく有名プロポーカープレイヤーも出てきますので、そのやり取りや会話などもちょっとしたドラマになっており面白いです。

著者が何を考えどうプレイされたのか分かりますので、同じようなハンドが配られ迷った時は参考になります。同じようなアクションをすれば心強いですからね。

この本の素晴らしいところは、ハンドを復習できるようにそのハンドで出てきた概念が、入門編で説明されているページに照らし合わされていることです。言わば入門編とセットのような感じです。

 

デジタルポーカーHUDでここまで勝てる

定価:2300円

初版:2013年7月3日

著者:フィル・ゴードン

監修者:百方恵二

訳者:松山宗彦

入門編が出てから6年の間にオンラインポーカーが普及して、ポーカーが大きく進化しました。レンジ対レンジという概念が出てきたり、ハイステークスの場はポットリミットオマハが選ばれたり、戦い方が大きく変わったのです。それまではプリフロップができていれば勝てていたのですが、現代ではそうはいかずプリフロップはできて当たり前、勝負はフロップ以降となったのです。

この本ではHUD(ヘッズアップ・ディスプレイ)を使って統計的に相手を分析し、どういうタイプならこういうふうに戦えばいいと、現代のオンラインポーカーの戦い方が書かれています。ノーリミットホールデムは勿論のこと、ポットリミットオマハの戦い方についても書かれています。

ポーカーの神童達(フィルギャルフォンド、アネットオブレスタッド、ダニエルケイツ)が出てきて著者にレスンを与える描写はとても興味深い内容でした。

非常に読み応えがあって私のポーカーレベルでは少し難しい本でした。しかしオンラインポーカーで本当に勝ちたいならそれなりの努力もしなければなりません。この本はその時の教科書に最適だと思います。

ポットオッズとインプライドオッズ

ポーカーにおいて自分のハンドの勝率と、勝った場合に得られるであろうポットの大きさはアクションを決定する上で重要になります。例えばジャンケンなどの勝率1/2の賭けで、勝てば賭けた金額の2倍貰えるとなれば、やったとしてもやらなかったとしても長期的には損得無しということになります。しかし賭けた金額の3倍貰えるとなればどうでしょうか。勝ち負けを1クールとすれば、1クール毎に賭け金1単位が増えることとなり、これはやった方が得ということになります。また逆に賭けた金額の1/2貰えるとなれば、1クール毎に賭け金の1/2を失うこととなり、これはやると損します。ポーカーでも随所にこの概念を必要とし、最終的には正しい決断を一番多くできたものが利益を生み易いのです。

 

 

ポットオッズ

相手も私も$2500持っており、プリフロップでポットは$5000になってたとします。フロップで相手はオールインしてきました。ポットは$7500になっており、これをコールするかどうかまずはオッズを求めます。ポットオッズ=ポットへ入れる金額/ポットへ入れた後のポットの総額として求まります。

この場合2500/(7500+2500)=1/4となり、つまり1の投資に対して4のリターンということになります。よって勝率が25%以上あれば見合う計算となり、コールは正しいです。言い換えると4回に1回以上勝てればいいということです。一方25%無ければ理論上は正しい決断とは言えません。また丁度25%ならトントンでコールしてもしなくても長期的には±0になります。これをブレイクパーイーブンパーセンテージ(BEP)といいます。

例) 自分のハンド6♠7♠ フロップA♠K♥2♠

相手がAかKをヒットさせたらしく、ポット$5000に対して$2500をオールイン

リバーまでフラッシュが完成する確率は約35%ですので、勝率はポットオッズに十分見合っておりコールは正しいアクションということになります。

 

インプライドオッズ

ポットオッズの場合ですと相手がオールインした時点で相手の金額は$0になってしまうため、計算は比較的容易ですが、ベットだった場合はどうでしょうか。この場合は将来得られるであろう金額からオッズを計算する必要があり、これをインプライドオッズといいます。インプライドオッズ=ポットへ入れる金額+将来必要なコール額/最終的なポットの総額として求まり計算が少々煩雑になります。言い換えると現時点でのポットオッズは合わなくても、最終的には膨れ上がるだろうと予測できればインプライドオッズによりコールも妥当性を得るということです。

例) 自分のハンド2♥2♣

相手も私も$2500持っており、ポット$240に対して、相手が$480へレイズしてきた

フロップでセットが完成し、相手の強さうなカードがヒットすれば有り金全部奪えそうだが、もしヒットしなかったらこのままおとなしくチェックフォールドするとします。インプライドオッズは480/(240+480+480+2020)≒0.15、フロップでセット以上になる確率は約11.8%ですので、勝率がインプライドオッズに見合わずフォールドするのが正しい決断と言えます。

 

ポット比率ベットに対するオッズとBEP、必要なアウツの数
ポットに対して相手がベットしてきた金額 ポットオッズないしインプライドオッズ BEP 2枚のカードを引く際に必要なアウツの数 1枚のカードを引く際に必要なアウツの数
ポットの1/4 1/6 約17% 5枚 9枚
ポットの1/3 1/5 約20% 5枚 10枚
ポットの1/2 1/4 約25% 7枚 13枚
ポットの2/3 2/7 約29% 8枚 15枚
ポットの3/4 3/10 約30% 8枚 15枚
ポットサイズ 1/3 約33% 9枚 17枚
ポットの2倍 2/5 約40% 10枚 20枚

フロップで相手がポットサイズ以下でオールインしてきた場合、フラッシュドローかストレートドロー(ガットショットを除く)ならコールが正しい。

ターンで相手がハーフポット以上でオールインしてきた場合、フラッシュドローかストレートドロー(ガットショットを除く)でコールするのは間違いである。

 

アウツ

アウツとはこれを引いたら勝てるだろうと思われるカードの枚数を表します。例えば6♠7♠を持ってたとしてボードに4♥5♠A♦が落ちたとします。この後ターンかリバーで3か8が落ちればストレートが完成して勝てそうな場合、アウツは8枚(3♠3♣3♥3♦8♠8♣8♥8♦)ということになります。アウツの数によって勝率を概算することができます。この場合は以下の計算になります。

1-(39/47×38/46)=1-1482/2162=680/2162≒0.3145 約31.5%
ターンとリバーで3か8が落ちない確率の余事象を求めます。

よって約31.5%の確率でターンかリバーでストレートが完成するということになります。

 

フロップ時のアウツによるターンかリバーでの完成率
アウツ ターン(%) リバー(%)
15 31.9 54.1 オープンエンドストレートフラッシュドロー
14 29.8 51.2
13 27.7 48.1
12 25.5 45.0 ガットショットストレートフラッシュドロー
11 23.4 41.7
10 21.3 38.4
9 19.1 35.0 フラッシュドロー
8 17.0 31.5 オープンエンドストレートドロー
7 14.9 27.8
6 12.8 24.1
5 10.6 20.4
4 8.5 16.5 ガットショットストレートドロー
3 6.4 12.5 ペア
2 4.3 8.4 トリップス
1 2.1 4.3 クワッズ

 

2倍の法則と4倍の法則

上表よりフロップ時にアウツに2を掛ければターンで、4を掛ければリバーまでで役が完成する確率に近似することが分かります。例)フラッシュドロー 9×2=18≒19.1 9×4=36≒35.0

これを2倍の法則、4倍の法則といいます。ターン時ではアウツに2を掛ければリバーの役が完成する確率が求まります。尚4倍の法則はアウツが多くなるほど近似確率が大きくなって実際の確率と乖離してきます。

 

実戦例

例1)

アンティ$10、ブラインド$40/80のプリフロップで、SBの私(J♣T♣)までフォールドで回り、私が$200へレイズしたところBBからコールが入って、フロップで5♦6♣3♠が落ち、私がチェックしたところBBが$80をベットしたところです。ポットオッズは80/(540+80)≒0.13、アウツは6枚(JとT)ですので、ターンでアウツを引ける確率は2倍の法則より約12%です。大体等しいですのでコールでいいかと思います。

 

リバーでQ♣が落ち、ランナーランナーまで得てアウツが9枚(♣のカード)増えました。ここでチェックしますと相手はまた$80をベットしてきました。ポットオッズは80/(620+80)≒0.114、アウツは合計15枚ですのでリバーでアウツの引ける確率は2倍の法則より約30%です。勝率はポットオッズに比べて十分大きいですのでやはりコールが正しいです。

 

リバーでは5♠が落ち、お互いにチェックして、ショーダウンで9♠9♦を開いた相手がポットを勝ち取りました。ビッグスタックの相手はショートスタックの私に何を怯えていたのかは分かりませんが、フロップでオーバーペアならポットの半分~3/4はベットした方がいいです。リバーでもドローを消すためポットの3/4はベットした方がいいです。これならドローを引かせて貰うチャンスは私にはありませんでした。今回のような安いベット額は、安くアウツを引かせるようなもので長期的には相手が損と言えます。

 

例2)

ヘッズアップ、アンティ$25、ブラインド$150/300のプリフロップでSBの私(4♦T♦)は$600にレイズし相手がコール、フロップで8♣9♦6♦が落ちフラッシュドローを引き当て、相手がチェックレイズオールインしてきたところです。ポットオッズは1558/(3608+1558)≒0.3、アウツは♦の9枚ですのでリバーまで引ける確率は4倍の法則より約36%です。勝率はポットオッズに比べて十分大きいですのでコールが正しいです。

 

ターンでK♠、リバーでJ♦が落ち、フラッシュを完成させた私がポットを獲得しました。

トーナメントはブラインドスチールが全て

 

スチールの概念

テキサスホールデムにおいて、プレイに値する手が中々入らないのは言うまでもありません。しかしそれは相手にも言えることで、大体は皆にとって都合の悪いハンドが配られるものです。この性質を突いてブラインドスチールと言う戦略が出てきます。ブラインドスチールは単にスチールとも言いますが、要はプリフロップで参加に値しないようなハンドでも、自分までフォールドで回ってくればレイズインしてブラインドを掠め取ろうというわけで、以前プロの間では稼ぎの種になっていました。

これはアンティの発生しているポーカーで、特にトーナメントの中盤以後には非常に重要な戦略となってきます。2001年WSOPメインイベントで優勝したカルロス・モーテンセンは「トーナメントはスチールが全てだ。」と言ったほどです。

しかしスチールはあまりにも一般的になってきたため、リスチールという対抗手段も現れ、簡単にはいかなくなってきています。

大事なのはどのタイミングでやるかです。ここではブラインドスチールを取り上げて分かりやすく説明したいと思います。

 

ブラインドスチールの基本

6人制トーナメントの中盤で3人が脱落しています。私のハンドはJ♣、7♥とクズ手ですが、ここはポジションがいいためスチールを試み3bbをベットしました。

 

二人からコールが入り3人でフロップを見にいくこととなりましたが、二人共チャックでしたのでセカンドヒットの私はポットの半分超えをベットしました。

 

二人共フォールドしポットを勝ち取ることができました。

このようにスチールはなるべくポジションのいい所からやるのが基本です。もしコールされてしまっても、フロップ以後ポジションを生かしたプレイができるからです。よってボタンの位置からやるのが一番理想的なのですが、ボタンの参加ハンドレンジはとても広く、どうせ大したハンドでないのだろうと見なされ、スリーベットのリスチールがとんでくることもしばしばあります。このためスチールを狙うポジションはカットオフ、ハイジャックと段々アーリーポジションの方へ近い人も狙うようになりました。

尚この場合は三人しかいませんでしたが、もっとたくさんのプレイヤーがいる時はスチールを狙う相手も重要になってきます。なるべく参加率が高くルーズにプレイしている人が一番いいターゲットです。

 

ブラインドスチールの失敗

6人制トーナメントの中盤5人が残っています。私はA♥2♥でアーリーポジションからスチール含みで、3bbでレイズインしました。

 

カットオフがコール、ボタンは$1028をオールインしてきました。

 

負けるとスタックの大半を失ってしまうためA♥2♥ではコールしきれず、皆もフォールドし、ボタンが大きなポットを勝ち取りました。

スタック/(SB+BB+アンテ×人数)をCSI(チップ・ステイタス・インデックス)といい、CSIが7以下の状態をショートスタックと言います。この例ですとボタンは1028/(40+80+10×5)≒6.047<7でショートスタックです。

トーナメントでショートスタックになりますとオールインが一般的な戦術となりますので、ショートスタックが後ろに控えている時はスチールを控えた方がいいです。こういう場合はオールインに耐えうるハンドを待つことになります。また逆にビッグスタックの人にも押し返され易いためスチールには慎重になった方がいいです。

尚ベット、コールがあるポットにスリーベット(リレイズ)することをスクイーズと言いますが、ショートすタックのオールインスクイーズは非常に有効な戦略です。

 

リスチール

6人制のトーナメントで5人が残っています。今ボタンが3bbにレイズし、スモールブラインドがフォールドし、ビッグブラインドの私にアクションは回ってきました。

 

TOT Steal(トータルスチール)が41と出ていますので、少し高目だ(ブラインドスチールやり過ぎてる)なっと思い、私のハンドはそれほど強いものではありませんが、レイズ額の3倍(リスチール)で押し返して見ることにしました。

 

相手はフォールドし、リスチールに成功しました。

これはホールデムマネージャー2を使わないと分かりませんが、TOT Stealが40%も越えている相手にはリスチールを試してみる価値は十分にあります。その時自分のハンドは何でもいいと思いますが、強いハンドでなければ、エクイティのあるハンドであれば尚いいです。仮に相手にコールされた場合でも、フロップに噛み合うことで、その後も強いアクションができるからです。

エクイティにあるハンドとは全てのペア(セットになる可能性がある)、フラッシュかストレートになるコネクター、或いはギャップコネクターです。参考までにリスチールの参考レンジ表を下記に記しておきます。

 

リスチールの参考レンジ

スーテッドハンド
オフ
スー
トの
ハン
AA AK AQ AJ AT A9 A8 A7 A6 A5 A4 A3 A2
AK KK KQ KJ KT K9 K8 K7 K6 K5 K4 K3 K2
AQ KQ QQ QJ QT Q9 Q8 Q7 Q6 Q5 Q4 Q3 Q2
AJ KJ QJ JJ JT J9 J8 J7 J6 J5 J4 J3 J2
AT KT QT JT TT T9 T8 T7 T6 T5 T4 T3 T2
A9 K9 Q9 J9 T9 99 98 97 96 95 94 93 92
A8 K8 Q8 J8 T8 98 88 87 86 85 84 83 82
A7 K7 Q7 J7 T7 97 87 77 76 75 74 73 72
A6 K6 Q6 J6 T6 96 86 76 66 65 64 63 62
A5 K5 Q5 J5 T5 95 85 75 65 55 54 53 52
A4 K4 Q4 J4 T4 94 84 74 64 54 44 43 42
A3 K3 Q3 J3 T3 93 83 73 63 53 43 33 32
A2 K2 Q2 J2 T2 92 82 72 62 52 42 32 22

 

まとめ

ブラインドスチールはトーナメントの中盤以後(アンティとブラインドが上昇している時)特に重要で、勝つために必要不可欠な戦略となてきます。レイトポジションにいる時自分までフォールドで回ってきたら、3bb以上にレイズしてブラインドを掠め取ることを意識しましょう。この時ブラインドスチールのターゲットになりやすいのは、平均くらいのスタックを持ち、参加率(VPIP)の高いルーズなプレイヤーです。ショートスタック後ろに控えている時はスチールは慎重になった方がいいです。

またブラインドスチールを頻繁に行っている(レイトポジションから頻繁にレイズインしてくる)プレイヤーがいれば、スリーベットしてリスチールを試みるのがいいです。リスチールはベットサイズが大きいため、ポジションが悪いならばエクイティのあるハンドでやるのがベストです。